「人生ってままならないものだと思いませんか」

ぽつんと落とされた言葉にアリババは首を傾げた。

「?どういう意味だよ」
「そのままの意味ですよ。こうしたいとかこうありたいとか…幾ら考え思っても、そうなる確率は高くはない…言葉通りにままならないものですよね」

ああそういうことかとアリババは小さく頷いた。中空に投げ出した視線の行方は当人もよく分からないままだ。

「まあそりゃ仕方ないだろ。逆を言えばそれが人生ってものじゃないか?」
「…あなたらしい考え方ですね」

ふっと細やかに零れた笑みは賞賛に見えただろうか。

「けれどやはり…こうなってほしいという願いは尽きることはありません。誰だって…」

絶望を知らない内は願いを寄せたいものだから。何度だって何度だって。…それはそうしてそれで、とても幸せなことなのかもしれないけれど。

「それが人間のいいところだろ」

俺はそんな在り方が好きだよ。
アリババの呟きはやけに真剣味を帯びていて、それこそが彼の願いだったのかもしれない。誰かに寄せられた願いは…やけに尊いものだと。

「本当にあなたらしい…」

苦しみは幸せへの布石だとそう信じたい。
生まれたからにはだって、幸せになりたいわ。みんなそうでしょう?

「白龍はなにか叶えたいことでもあるのか?」

そりゃあ背景を知れば確実にあるんだろうけど。

「…そうですね。元々持つものと別にするならありますよ」

柔らかく上げられた口角が目に焼き付いていく。じりっと見えた世界の一端を、果たして理解が出来るというのか。

「アリババ殿はなんだと思いますか?」

白龍のつるりとした眼球は色を深めて。心音が一瞬間聴こえなくなった。

「…え、っと…」

さあわからない。
ようやく絞り出せた音の乾きはどこからくるのか。じわりと足下から這い上がってくるものの正体が、視えれば総てが明瞭に思えるだろう。
笑い声に耳を擽られ、アリババは再び白龍を視界に迎えた。

「まさかそんなに緊張されるとは思いませんでした」

くすくすと楽しげに笑われて、無性にアリババは恥ずかしくなった。そんなに笑うなよと拗ねればまた笑われて。

「すみません、なんだか可愛らしくて…」
「か、可愛らしいってなんだよ」
「ええ、すみません」

全く悪いと思ってないだろう。全く、全く。

「ああ、叶えたいことでしたね」

すみませんつい話が逸れました。
もうなんでもいいから言ってくれ。
依然拗ねたままアリババが白龍を見やる。そんなアリババの行動にさえ白龍は笑みを浮かべて。

「そうですね……あなたにだけは秘密です」
「…はあっ?!」

おまえ、ここまで引っ張っておいておまえ、
過剰な反応とおかしな動き。アリババのらしいと言える行動に白龍は声をあげて笑った。ああ可笑しい。あなたは本当に、いつだって、

「くっそー泣き虫の癖に…覚えてろよ」
「そんなに怒らないで下さいよ。心が狭いですね」
「なんだと?!」
「ああもうすみませんてば……ちゃんといつか言いますから。きっと」

約束です。
そう言った白龍の表情がやけに静かで優しくて、アリババはなにも言えなくなった。一拍置いて絶対だからなとアリババが告げると、白龍は黙って頷いた。
いつかいつか、どうかいつか、



いつか…あなたに、